胚の初期生存率が産子数を決定する

(PIGPROGRESS Vol.24, No. 5 2008 by Dr. Mike Varley, SCA NuTec)

1腹産子数とは養豚での収益性の一つのカギとなる数値であり、分娩時または離乳時に測定します。産子数には品種や妊娠初期、特に妊娠開始から25日間における栄養が大きく影響します。受精から25日目以降は産子数にはそれほど重要ではありません。妊娠初期の、胚の生存や着床率に影響を与える因子についてよく理解すれば、生産性が大きく改善されるでしょう。

 平均産子数は農場の年間成績を算出するために用いられます。しかしながら、母豚の実際の生産値には広いバラツキがあります。仮に母豚1000頭の農場で平均産子数が1腹当り12.5頭だとすると、その範囲は418頭までとかなり広い幅があるでしょう。経済的にも産子数は常に重要なポイントであり、表1に産子数とコストの一般的な関係を示しました。
 最高の産子数を出している農場では母豚の飼料コストも増大しますが、それにまして子豚1頭当りのコストが減少します。
 産子数の対象には遺伝的素因などが大きいと考えられています。産子数の多い品種があり、また特定の個体群やハイブリッドにも多いものがあります。MLCスコッツフィールドで行なわれた大規模な試験によると、ある企業の品種では他の平均生存産子数が9.78頭に対して10.79頭と高かったと報告されました。

 栄養や健康状態も様々な形で産子数に大きく関わります。例えば繁殖サイクルのフェーズごとの飼料給与量、特に1日当りのエネルギーと蛋白摂取量などです。温度や換気などの環境は多分それほど大きな影響ではないと思いますが、極端に過酷な条件が特定の期間、例えば交配や妊娠初期では明らかに影響を与えます。

 また、妊娠のごく始めから25日目までの間の光量が多ければ産子数が増えることがこれまでに明らかにされており、25日目以降での変化はごく僅かしか影響しません。

 図1に経産母豚の胎子数の推移を示します。排卵時には母豚は約20個の卵子を放出し、交配後の数日でほぼ全てが受精卵となります。交配からおよそ13日目までは受精卵の減少はほとんどありませんが、これから25日目までの間に、全ての母豚でというわけではありませんが、受精卵の大きなロスが発生します。 その後の妊娠期間においても数頭の胎子の死亡が発生しますが、この比較的短い期間における受精卵の大きなロスこそが実際の産子数に大きな影響を与えます。ですから、胚の初期の死亡にかかわる因子が産子数を大きく決定するのです。このことはイギリスのノッチンガム大学やロウェット研究所で詳細に調べられてきました。
 研究によると、胚が徐々に子宮壁との結合を始めて母体からの栄養に頼り始めるこの重要な
1225日目の、子宮角の内部における胚のポジショニングと胚の大きさのバラツキに遺伝的な違いがおそらくあるのだろうということが明らかになりました。ほとんどの胚の死は浮遊状態から子宮壁に定着するこの複雑な移行期に発生するのです。

変動しやすい胚のロス

 この時期の生死は胚の定着への相互間の競合の影響もありそうである。光は以後15日目の妊娠初期において、子宮の中の受精卵の大きさや発達度合いに高いバラツキがあった場合、高い割合で胚のロスが発生するだろう。より成熟した胚は定着の成功率が高く、発達の遅れたものははじき出されて死の運命をたどる。
 対照的に、初期の子宮内容物は高い一様性を示している−全ての胚は“さやの中の豆”のように同一で、胚同士の競合は少なくなり、ほとんどが生存できるように見える。このような妊娠初期における胚の一様性は、図
2に示すように、メイシャンなどの特に多産の品種で認められる。 まだ研究の途中であるが、栄養が胚の生存率や交配時の初期の卵子の大きさのバラツキに影響する事は明らかである。高い産子数につながる高い卵子数は排卵時の卵子の成熟と放散の度合いに左右される。

現実的な推測

 最初に一番適切な遺伝形質を持つものを選ぶことが一番大切であり、豚群の産子数の問題に取り組む時には再検討する必要もあるでしょう。
 繁殖候補豚や産次の若い母豚に、妊娠初期の
3週間で過食させると重大な胚の損失につながるため、飼料の給与法も見直さなければなりません。これはコルチコステロイドやエンドルフィンのようないくつかのホルモンのシステムが関係するもので、ストレスによって逆に働き、繁殖にも影響を与えます。
 妊娠初期の母豚を、豚房を移動させたり新しいグループに入れることはストレスになるので避けなければなりません。ですから、グループ管理システムを採用している農場の多くで、いまだに交配から2528日目まではストールを使っています。夏場の高い環境温度はストレスと同じルートで胚の死滅の原因となります。
 繁殖候補豚や母豚の給餌方法を常にチェックし続ける事も重要です。もし給与方法が農場にあっていなければ、胚が多く死ぬ事になります。体重が急激に減少もしくは増加している母豚では内分泌システムが乱れ、ホルモンバランスが崩れて胚の損失につながります。給餌プログラムのガイドラインがたくさん発表されていますが、農場は一つ一つ違うので個別に対応しなければなりません。
 図3に胚の生存率と産子数に大きな影響を与える因子をまとめました。
 英国のBPEXのデータによると、産子数は再び増加する傾向にあります。2004年の記録では生存産子数は10.7頭でした。2006年にはこの記録は11.7頭に達しています。妊娠初期の胚の生存率にかかわる最新のガイドラインに従えば、産子数は増加し続けるかもしれません。そして結果としてコストの削減につながるでしょう。

(PIGPROGRESS Vol.24, No. 5 2008 by Dr. Mike Varley, SCA NuTec)





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