育種と繁殖特集
繁殖農場の産次分け構造
(PigSite Articles April 27th, 2009)
本論文では繁殖農場において栄養と管理、健康状態を改善させるために年齢によって群分けする場合の原理を説明します。これは2008年のマニトバスワインセミナーでR.
Dean Boyd (The Hanor Co)とNoel Williams (PIC USA)が発表したものです。
イントロダクション
本論文では農場で年齢によって群分けすることについて、栄養学的な見地から原理を解説します。この前提として、若く未成熟な母豚(一、二産目)と年をとった母豚(五産目以上)では必要な栄養の量とタイプがかなり違うということがあります。一腹当りの生存産子数と母豚の生涯産子数のデータは年齢別の栄養アプローチに役立ちます。最近のホナーシステムを利用した、年齢分けの様式例が示されました。著者らはこの方法によって健康と繁殖成績が大きく改善されると確信しています。
母豚の栄養ライフサイクルには二つのピークがある
栄養が産子数に対する遺伝的能力の発揮にどれほどの影響を与えるかを説明するため、二つの例が示されました。初産の母豚(P-1)授乳中に体からタンパク質を特に失いやすいです。最も重要視しなければならないのは体からのタンパク質のロスを防ぐための配合と給餌量です。なぜなら、このタンパク質のロスは離乳から発情までの間隔(WEI)と二産目の産子数に直接関係するからです(Boyd et al. 20001)。
例えば、一産目の授乳期間中に体から4sのタンパク質が失われると、二産目の産子数が0.75頭は少なくなります。これに対して、タンパク質のロスを2s以下に抑えると、一産目よりも二産目で一腹1頭増加します。WEIは体のタンパク質のロスに比例して増加します(King, 19872)(R2=0.63)。初産で産子数が多く、乳量が多くてタンパク質のロスが多すぎたような場合ではWEIが10日以上になることも珍しくはありません。不幸なことに、時には繁殖障害とみなされて豚分から早期に淘汰される場合もあります。
より年をとった母豚では産歴が進むにつれて産子数の減少が早期に現れ、育成能力も衰えるリスクもありますがこの原因は別物です。総産子数と生存産子数は三産目まで増加し、約五、六産目まで一定し、その後徐々に減少するのが観察されます(図1.)。このカーブの形は早期に離乳(15日齢)する母豚と遅く離乳(24日齢)でも同じです(Smits、20033)。この多産型の母豚の産歴による産子数の減少は繁殖学的見地から見て早すぎるように見えます。母豚の生涯生産において減少する子豚の頭数は、生産期間を8産か10産によって1.8から3.3頭になるでしょう。著者らはこの減少の理由のひとつとして母豚の年齢ごとの微量栄養素の特性だと仮設しています。この概念はBoyd(2004)4によって提唱され、次のように議論されてきました。
図1. 異なる授乳期間の母豚における、産歴と産子数の減少(Smits、2003)
高齢の母豚では微量栄養素が不均衡になる
微量栄養素はビタミンと微量ミネラル(VTM)で構成されます。これらは餌の中の0.12〜0.15%ですが、栄養素全体の約半数を占めます。概念的に、微量栄養素は飼料中に不足が起こらないように安全の余裕を持って配合されています。現実には産歴が増えるごとに徐々に安全領域が減少します。徐々に産子数が減少するのもそのひとつの結果です(Mahan and Newton、19955)。これは妊娠期の餌はボディーコンディションが回復すると全ての経産母豚で成長を制限、たとえば餌を一日2.3kgに固定するために起こりがちな事だと考えられます。しかしながら、体重は産歴が進むごとに少しずつ増加します。この一定した飼料配分はタンパク質やエネルギーの必要量には適切です(NRC、19986;PIC
USA、19997)が、微量栄養素にはたぶんマッチしません。なぜなら、これらの栄養素は正常な組織の代謝を助けるために使われるため、組織の体積が増大するにつれて増加します。このことは、産歴が増えるごとに体重1s当りの微量栄養素の量が減少するという結果になります(図2.)。問題はこのことが妊娠ごとに起こり、また影響が少ないとはいえ授乳期間にも起こるということです。ですから、高齢の(より体重の重い)母豚は栄養や繁殖、免疫学的にリスクが高まります。
図2.:産歴が増えるごとに減少する体重あたりの微量栄養素の減少
(PIC USA 2002の平均日摂取量と母豚の産歴ごとの体重を参考数値とし、飼料中の微量栄養素を0.149%としてBoydとHedgesらが2004年に計算したもの)
高齢の母豚と産子数に合わせた微量栄養素
最初に年齢に関連した産子数の減少と栄養との関係を調べるため、ホナーの2農場の成熟した母豚(P-3からP-10)を試験しました(Boyd、2004)。産次分け飼育はどちらの農場も1区画(50%)を成熟した高齢の母豚(3産以上の母豚)に分けて実践していました。対照群の母豚には通常の0.15%の微量栄養素を給与しました。試験群の母豚の飼料は修正数値として妊娠期は0.76、授乳期には0.82の微量栄養素とコリンを追加しました。この増加はP-3の母豚とP-7の母豚で体重当りの微量栄養素が同じになるように増やしたものです。この追加による母豚1頭当りの飼料コストの増加は対象群と比べておよそ年間で1頭当り1.69ドルです。最初に母豚に授乳期間を通して試験用の飼料を食べさせた後、12ヶ月間継続して記録を行いました。離乳子豚数は微量栄養素を均等化した4産から10産の母豚で改善しました(0.6頭/腹;1.44頭/年)(図3.)。母豚の生存率はこの試験では特に改善されませんでした(-0.26%)。
この概念の原理、つまり繁殖農場で初産と二産目の母豚、次に高齢の母豚の栄養レベルを適切に保つことが実践できれば、母豚の生涯生産子豚数が改善するでしょう。これは1996年のホナー年齢別モデルで試験され、このとき母豚は3群(P-0とP-1;P-2とP-3;P-4とP-12)に分けられました。このときに実践され事が検討され、現在の雛形となっている母豚群を二つに分けて十分に特徴的な飼養管理をするという形態になりました。最初に栄養をとく月に加えることによる出費に対し、生涯生産子豚数が増加し、母豚の活力の低下のリスクが減少し、離乳子豚1頭当たりの飼料コストは増加しませんでした。
表1.産歴と妊娠の生理学的サイクルの違いをもとにした栄養要求の評価
コストを増加させずに母豚に能力を発揮させる栄養の変更例
母豚の産歴
P0、交配前の育成母豚 |
排卵と成長を促進する飼料 |
P0、1産目の離乳まで |
小さな母豚の排卵を促進する飼料 |
P1 |
リジンを妊娠期の成長に0.68%、授乳期に1.30% |
P2 |
リジンを妊娠期の成長に0.62%、授乳期に1.00% |
P3-4 |
リジンを妊娠期の成長抑制のため0.56%に、授乳期は1.00% |
P5 |
微量栄養素の補正−ふすまを最大に使ってコスト削減 リジンを妊娠期の成長抑制のために0.52%、授乳期は0.95% |
P6-12 |
微量栄養素の補正−ふすまでコスト削減 |
P1-12 |
生産年数を増やすために交配から30日目まで免疫調整 |
妊娠期のリジン要求量はNRC 1998のモデルを使用して算出した。
授乳期のリジン要求量はPIC USA 1999を使用した。
表1は若い群と成熟した母豚と高齢の母豚からなる群を分けるために我々が使っている簡素化した様式です。この表は「生産期間の全てにわたって必要な栄養」と、「栄養または機能性タンパクで補正できる特別な生理学的要求」に関連しています。
母豚群を二つに分ける意味は現在の栄養学的知識と生存産子数を改善するために必要になると予測されるもの(血漿タンパクなどの免疫調整がキーポイント)がベースとなっています。
ハナー舎は食肉工場と連携しているため、管理上、離乳した母豚は農場の母豚が年間に生産した離乳子豚の増加(目標は1頭あたり29-30頭)として計算されます。産歴ごとの特別な栄養の例を表1の下段部分に示しています。
母豚を二群に分けた場合の予想される収益
母豚を若い群(P0からP2までの2回の妊娠期間までの群)とP3からP10までの高齢の群(3回めから10回目までの妊娠母豚)の二群に分けることは栄養の要求量のあまりにも違う母豚にあわせるための良い方法です。予測される収益は初産の産子数を多く、そして二産目の産子数も少なくしないことで母豚の生涯生産子豚数を増やすことで得られます。P1の母豚が順調に再交配し(P2)、妊娠30日目まで到達すれば特別な若い母豚用の栄養は必要なくなるでしょう。しかしながら、健康上の問題から若い母豚をまだ群分けしておく必要もあるかもしれません。
P3とP4の母豚を高齢のグループに含めるのは妊娠期と授乳期の餌コストを抑えるためです。この群分けによるメリットは産子数と離乳子豚数の加齢による減少を避けることでもたらされ、1頭あたりの生涯生産頭数で1.8から3.3頭増えるでしょう。微量栄養素の量ややり方を変えることで、若い母豚と比べて高齢な母豚の活力がやや衰えてくるのが防げるかは明らかにされていません。成熟した母豚は安い副産物を飼料原料としてうまく利用します。表2に二つに群分けした場合と標準的な繁殖農場の年間飼料コストの比較を示します。
表2.2007年12月の飼料コスト(ドル)をもとにした母豚の飼料コスト
成熟した母豚と老齢の母豚を群分けする目的は、健康的に年をとらせることによって生産日数を延長することです。母豚が犬やネコと同様のパターンで年をとる8,9と考えるなら、高齢の母豚は免疫機能や栄養の吸収力(もしくは蓄積力)も落ちていると考えるべきです。年齢が進むにつれて、代謝や生理機能に加齢性の変化が起こり、それが高齢の動物の栄養の利用に影響します。免疫力の低下は特に気にするべきです。ビタミンEは(量や方法にもよりますが)感染防御の免疫反応を改善するために重要です。最近の研究によると、血漿タンパクの機能性タンパクがこの二番目のグループに属する高齢の母豚でも免疫を改善することが認められました10。蹄疾患と進行性の骨関節症も同様に改善されると考えられます。
結論
本論文では繁殖農場で母豚群を二群に分けて年齢に基づいた給餌を行うことの原理を説明しています。これにより、二産目も老齢の母豚も産子数が改善されることが示されました。
この変更は現行の繁殖農場でも可能で、昔の例にもあることなので心を閉ざさないでください。このやり方は栄養学的な観点をもとにしたものですが、我々はPRRSやマイコプラズマ性肺炎、子豚の腸疾患などの健康問題(そして繁殖)の解決にも貢献すると考えています。この方法には離乳から交配までに産子数を増やすための給餌法(1日4回給餌)の実践が必要です。
著者らは妊娠初期の免疫調整(人間での調査結果によるもので、血漿の機能タンパクが関係すると思われる)が胚の活力の改善につながるなら、離乳から交配後30日までの給餌方法も検討しなければならないと考えています。
妊娠期と授乳期の飼料がそれぞれ一種類だというのは簡単ですが、著者らの見積もり(表2)によるとこのシステムでは見えない大きなコストがかかっています。この分野においては家畜よりもペットの研究のほうがずっと進んでいて、もっと進んだ方法を示してくれます。
参考文献
1. Boyd, R.D., K.J. Touchette, G.C.
2. King, R.H. 1987. Nutritional
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Nutritional biotechnology in the feed and food industries. Edited by T.P. Lyons
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4. Boyd, R.D. 2004. A novel approach
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6. NRC. 1998. Nutrient requirements
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7. PIC
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senior dog and cat nutrition. Proc. Tufts Univ. Anim. Expo. The Iams Co.,
9. Hayek, M.G., G.M. Davenport and
M.A. Ceddia. 2001. Nutrition and aging in companion animals. In: Current
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Iams Co.,
10. Crenshaw, J.D., J.M. Campbell,
L.E. Russell and R.D. Boyd 2004. Effect of spray-dried animal plasma in
lactation feed in a segregated-parity sow herd. Proc. A.D. Leman Swine Conf. 31
(suppl.):33