豚の栄養性筋症

(食餌性肝異栄養症、マルベリーハート病)

 

 

豚に特有な病気の中でも筋肉の退行性変性を起こすものは多い(例:マルベリーハート病)が、それ以外の退行性病変はそれほど多くはない(例:食餌性肝異栄養症)。黄色脂肪症は筋疾患に伴って認められる。

 

原因:

 マルベリーハート病と食餌性肝異栄養症は飼料中のセレンとビタミンE含量が少ない事に関連する。ビタミンE欠乏状態の子豚にデキストラン鉄を投与すると、セレンやビタミンE欠乏と同様の深刻な筋疾患がおきる(新生子豚への鉄の毒性)。セレンの要求量を増加させるその他の要因には低タンパク(特に含硫アミノ酸が少ない)飼料やセレンの拮抗物質が過剰に含まれる飼料の給与、セレン代謝に対する遺伝的な要因も考えられる。ビタミンEは多価不飽和脂肪酸やビタミンA、マイコトキシン濃度の高い飼料では吸収されにくい。

 

臨床所見:

 このような状況では共通した所見が認められる。成長の早い2-16週齢の豚で散発的な事故が発生する。通常は突然死で、しばしば運動によって促進される。

 

障害:

 マルベリーハート病では心嚢へのフィブリン塊を含む大量の黄色い液体の貯留と、心外膜と心筋における広範な出血が特徴である。顕微鏡による観察では心臓の血管と心筋細胞の障害が同時に認められ、しばしば間質の出血、毛細血管の血栓と広範囲な心筋の壊死も伴う。数日生き延びた豚では、限局性の脳軟化症による神経症状が認められる場合がある。

 食餌性肝異栄養症では皮下の浮腫と様々な程度の漿液性の空包形成が認められる。フィブリン線維が肝臓に付着し、実質の壊死と出血病巣による不規則な斑紋が特徴である。急性の障害では赤く膨張した小葉が散在し、胆嚢壁の浮腫が認められる。心筋の壊死病変と、あまり発生頻度は高くないが骨格筋の壊死も認められる場合がある。

 セレンまたはビタミンE欠乏で死亡した豚の多くで食道と胃の潰瘍もしくは潰瘍の前駆症状が認められる。

 

診断:

 病歴と肉眼解剖所見で判断できるが、心臓と骨格筋の障害を組織学的に確認する事が必要である。マルベリーハート病と鑑別が必要な疾患には急性敗血症(サルモネラ、豚丹毒、レンサ球菌症)、心膜炎、多漿膜炎、浮腫病などがある。食餌性肝異栄養症ではピッチ中毒(タール)やゴシポール中毒(綿実)、骨格筋の障害が顕著な場合では豚ストレス症候群も考慮すべきである。豚のセレンやビタミンE欠乏では他の動物と同様に、組織や血清中のセレン、ビタミンE、グルタチオンペルオキシダーゼの低下と、血清中のCKASTの上昇が認められる。

 

予防と治療:

 セレンやビタミンEの飼料添加(反芻獣と同様に)。影響を受けている豚や豚群では組織中の濃度を速やかに上昇させるため、セレン/ビタミンEの注射を行う。新生子豚の組織中の濃度を上昇させるため、妊娠後期の母豚に注射で投与する。













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