研究短報
マルベリーハート病と診断された豚の肝臓のビタミンEとセレン濃度
Francisco
J. pallares et. al.
要約
1999年1月1日から2000年12月31日までの2年間の間にアイオワ州立大学獣医診断研究所で77件のマルベリーハート病(MHD)が報告された。肝臓中の平均ビタミンE濃度はMHD以外の死亡豚の平均(4.80±3.2ppm)と比較してMHDは有意に低かった(3.12±1.12ppm)。MHDの影響を受けた豚の多くは3〜7週齢だった。MHDの豚の肝臓のビタミンE濃度は豚の日齢よる違いが統計的に認められたが、セレン含量については認められなかった。ビタミンE濃度が2ppm以下だと欠乏とされた。肝臓のビタミンE濃度が2ppm以下のものはMHDの徴候が肉眼もしくは顕微鏡下で確認された豚の25%であった。対象的に、肝臓中のセレン濃度はすべての豚で適切であった。
豚のマルベリーハート病(MHD)の症状はふつう若くて成長の早い豚の突然死である。典型的な肉眼所見は心筋の出血と心嚢水の貯留、肺の浮腫である。MHDの発病に関わるビタミンEの役割はまだ明らかではない。マルベリーハート病はビタミンEとセレンを制限した栄養で再現することができる。MHDの発生において豚の組織中のαトコフェロールの濃度が少ないという報告もあるが、適切な量であったという報告もある。ビタミンEとセレンを十分な量供給した育成豚でMHDが発生し続けたという例もある。本報告ではアイオワ州立大学の獣医診断研究所(ISU-VDL)で同時期にMHDと診断された豚のビタミンEとセレンの濃度を測定し、死亡した日齢や他の要因で死んだ豚との違いについて分析した。
ISU-VDLのデータベースで1999年から2000年の2年間でMHDと診断された症例について検討した。MHDと診断された77件のうち、肝臓のビタミンEとセレン濃度が測定されたものはそれぞれ37例と26例あった。MHD以外の症例と診断された豚のうち、同じ日齢の豚で組織中のビタミンEとセレン濃度が測定された60件を対象とした。心臓の障害(心筋線維の腫脹と横紋の消失、好酸性の増加、核の拡大を伴う間質の出血、図1)が顕微鏡下で認められたものがMHDと診断された。肝臓のうっ血を伴う中程度から深刻な肺のうっ血と浮腫も共通して認められる所見である。通常の顕微鏡検査はほとんどの症例で選択した組織の検査によって行われる。
検体の提供を受けてから1〜3日以内に肝臓のビタミンEとセレンを分析した。測定前の肝臓は冷蔵保存し、ビタミンEは現在豚の肝臓の測定に用いられている方法を採用し、湿重量ベースで算出した。セレン分析は肝臓の組織を濃硝酸中に硝酸マグネシウムと加えて破壊し、乾式灰化した。灰化物には水素化物発生原子吸光分析を行った。
グループ間の違いは肝臓のセレンとビタミンE濃度の違いを1-way分析で評価し、MHDの有無と対象した。豚の日齢は供変動させた。分析までの日数は変動を均質化させた。
平均の肝臓中ビタミンE 濃度はMHD以外の理由で死んだ豚の平均(4.80±3.2ppm)よりもMHD群で有意に低かった(3.12±1.12)。セレンの含有量はMHD以外の死亡豚の平均(473±195ppb)とMHD群(477±144ppb)の間に違いは認められなかった。提供を受けた豚の日齢のほとんどが3から7週齢であった(図2)。MHD群の豚では日齢によるビタミンEの変動が統計的に認められたがセレン濃度では認められなかった(表1)。MHDと診断された77件の豚のうち29例の組織から病原性を持つ微生物が一つもしくは複数確認された。分離された微生物は多いものからE. coli (n=12), Streptococcus suis (n=7),
Bordetella bronchiseptica (n=4), Arcanobacterium pyogenes (n=3), Haemophilus parasuis (n=3)であった。MHD群でビタミンE欠乏が認められた9例中、3例では病原体は認められなかった。欠乏の認められた豚の3例でStreptococcus suisが主要な細菌として検出された。
マルベリーハート病はビタミンEとセレンの両方を制限した栄養を給餌する事で実験的に再現できる。本調査によると、MHDと診断された豚の中にも適切な肝臓中の濃度が観察されたものがある事から、ビタミンEだけがMHDの原因となっているわけではない事が示された。実際、75%の豚が欠乏とされる2ppm以上の数値を示し(図3)、これは他の報告とも一致した。調査対象の豚で過去に病原体が検出されたものの半数がE. coliで、これはもっともありふれたものである。また、過去にMHDと診断された3〜5週齢の豚の心臓からS. suis type 2が21例中19例検出されたという報告がある。しかしながら、これらは多くの豚の第一次、もしくは二次感染を起こすものであり、これらの微生物の役割を評価することは難しい。MHDの豚には共通した潜在的な問題があると考えられるが、これらの微生物による大きな組織の炎症反応が認めれれない事から、障害を受けた組織への二次的な侵入の可能性がある。その他の要因として、遺伝的な素因を持つ豚で4〜5週齢の離乳ストレスが大きく関連しているとも言われている。
この散発的で発病率の少ない病気は同じような飼料を与えているところで発生するという仮説が獣医師の間では支持されている。さらに分子学的研究で細胞膜の脂肪酸の過酸化の感受性が高まっていることが明らかにされ、MHDの原因はそれぞれの個体におけるフリーラジカルを排除する能力の違いによるものかもしれない。
セレンの欠乏によってもMHDを起こすことは可能であるが、本研究の肝臓の含有量は適切であった(欠乏量は100pp以下)。セレンの影響はアイオワ州の養豚場では明らかとはならなかった。