NADIS Pig Health Bulletin - ビタミンEとセレンの欠乏
哺乳類は体の健康を維持するために細胞の継続的な更新が行われている。古い細胞や死んだ細胞は破壊され、体に再吸収される事になるが、この過程の多くは毒性のあるペルオキシダーゼやフリーラジカルなどを産生する酸化と呼ばれるプロセスによって行われる。これらの化学物質は他の組織に大きな障害を与えるが、これは健康な体では食物中に含まれる抗酸化物質の働きによって防がれている。代謝に関わるこのような物質には膨大な種類があり、動物種によって重要度が異なっている。豚において抗酸化作用に重要な役割を果たす3つの物質は次のとおりである。
A:フラボノイド
B:ビタミンC
C:ビタミンEとセレン
これらの欠乏がおこった場合、代謝経路が阻害され、障害が発生する。ビタミンEとセレンは協力して働く物質であるが、豚では抗酸化作用の第一の制限要因となり、どちらか片方もしくは両方が欠乏する事で典型的な健康障害が発生する。この報告では母豚の繁殖成績へのビタミンEの影響は無視し、若い育成豚における欠乏の影響についてのみ説明する。
臨床症状
豚でのビタミンE/セレンの欠乏による影響でもっとも典型的なのは、若くて成長の早い離乳子豚の突然死であるが、これは3週齢以上母豚につけられた子豚で見られるものである。
病理解剖では二つの特徴が認められる。
1)
マルベリーハート病(MHD)
毒性のあるペルオキシダーゼは心臓の筋肉を標的とし、心筋に障害を起こす。心臓は一般に拡張し、筋肉全体に白いすじが認められる。心臓周囲の心嚢内にはゼリー状の滲出物が認められるが、これは心膜炎とは区別される。加えて、肺は液体の貯留や小葉間の浮腫を伴う右心不全の徴候が認められる(図1)。影響を受ける豚は多くの場合で群れの中で一番良い豚であり、これは成長速度が最も早く、最もビタミンE/セレンを要求する個体である。この事はMHDがセレンの不足というよりもビタミンEの欠乏によるものであることを示している。
2)
食餌性肝異栄養症
肝臓にも障害が発生する。標準的な教科書によると肝臓は斑紋のある拡張した様相を呈し、もっともよくみられる状態としては充血して拡張し、裂傷が発生して腹腔内に出血を起こす。このような傷害は特に哺乳子豚における母豚の圧迫の影響と鑑別する必要がある。
これらの症状の両方が一頭の豚で認められるのはよくあることであり、また反芻獣のビタミンE/セレン欠乏の特徴である骨格筋の障害もいくらか伴う。肝臓の障害が第一の問題である場合、セレン欠乏が大きく関連していると思われる。
ビタミンEやセレンの欠乏の疑いは組織(特に肝臓)の濃度分析や病理学的検査で評価できる。さらに豚群に欠乏が疑われた場合、豚群全体からサンプル抽出した血液中のビタミンEとセレンを含む酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ濃度の測定により、離乳後の減少が明らかとなる。
MHDや食餌性肝異栄養症が昔から知られているのに対し、ビタミンEの免疫システムにおける機能はあまり評価されていない。さまざまな病原体による攻撃は豚の免疫反応を誘発するが、これは栄養や微量要素を大量に消費する。ビタミンEやセレンが適切なレベルにある事がこれらの反応においては必須の事である。つまり、免疫反応はビタミンEとセレンの消耗を引き起こす事になり(これは血液のサンプリングでも調べられている)、急激な欠乏状態や免疫機能の低下につながる。ワクチネーションは免疫システムへの刺激となるため、ワクチンの効果は適切なビタミンE/セレンレベルを保った豚でのみ発揮されるが、特に何回もワクチン接種を受けた豚で体内の栄養素の消耗につながる(ワクチンによっては危険を回避するためアジュバンドの中にビタミンEが含まれているものもある)。
ビタミンE/セレン源
胎児の成長過程における胎盤を通じたビタミンEの伝達は一般に乏しく(セレンはまだましであるが)、子豚へのビタミンEの供給は初乳中の脂肪分に依存する。ミルクを通じての伝達は極僅かである。この経路によるビタミンEの補給量が子豚が補給源となる餌を十分に食べるまで影響し続ける。
現代の豚の連続的な血液検査によると離乳後に血中ビタミンEレベルの大きな低下が認められるが、これは重要な意味を持つ
1) 母豚の初乳中のビタミンE含量を高めるためには分娩1か月前の母豚用飼料に高いレベルの栄養が含まれている事が必要であり、ワクチンプログラムとあわせて補助的なビタミンEの注射を含む事が望ましい
2) すべての子豚が生後6時間以内に初乳から十分な量のビタミンEを摂取しなければならない
3) 離乳後の飼料にはビタミンE/セレンが適切に含まれていなければならず、また要求量を満たすために摂食量を素早く増加させなければならない
特定の飼料成分がビタミンEの欠乏効果を助長する場合がある。特に飽和脂肪酸やプロピオン酸処理したトウモロコシであり、ふすまはセレンを吸着する。
豚の感受性
成長の早い豚が最もMHDや食餌性肝異栄養症になりやすいですが、他の発症にかかわる要因として以下のものがあります
1) 離乳後における過度の病原体による攻撃
2) 離乳後における過度のワクチン接種-複数のワクチンが必要な場合、間隔や用量について獣医師に相談しましょう
3) 感受性の高い品種があります。ランドレースはハロタン遺伝子(ストレス遺伝子)を持つものがあるだけでなく、抗酸化物質の要求量がより多いとされていて、ビタミンEの添加の必要があるなど欠乏に弱い事が知られています。英国ではこの品種の豚群からストレス遺伝子が除外されているのでこの問題はあまり大きくないと考えられています。
ビタミンEレベル
推奨されているビタミンEレベルは実際の現場では不適切な事がしばしばあり、議論する余地が大いにあります。最近の代表的な配合飼料のビタミンEレベルは以下の通りです。
○母豚用飼料(授乳期および妊娠期) 100IU/kg
○代用乳 250IU/kg
○人工乳 100-150IU/kg
○育成〜仕上げ用飼料 40-100IU/kg
セレンの含量は高レベルになると毒性を発揮するため、通常は0.3ppm以下に制限されています。
ビタミンは貯蔵中に分解されるため、適切な保存期間を守り、なるべく早く使い切らなければなりません。特に代用乳は小さな農場では使い切るまでに時間がかかり、またしばしば暖かい部屋で保管される事があるために重要視しなければなりません。
処置と予防
問題が確認された場合、抗酸化剤を添加する必要があります。ビタミンEの添加が解決につながるのは明らかですが、これが効果を発揮するためにはしばらく時間がかかります。体内のビタミンEレベルを回復させるためには少なくとも2週間かかるでしょう。また、ビタミンEによるコストの増加が他の方法の選択につながるかもしれません。
急性例ではビタミンCを飲水添加で5-7日投与するのも有効です。離乳頃にビタミンEを注射する方法もあります。ビタミンCは代用乳にビタミンEと一緒に含まれていますがミールタイプや冷式のペレット製法の場合のみ有効です。熱加工はビタミンCを分解します。
特に子豚用飼料で有機酸サプリメントの使用が増加していますが、これらにはバイオフラボノイドが含まれており、ビタミンEの抗酸化作用を助けます。
病原体からの攻撃やストレスを最小限にすることと同様にワクチネーションも再検討しましょう。特に離乳前後に複数のワクチンを使用するとビタミンE/セレンの消耗を引き起こします。
コスト
ビタミンE/セレン欠乏による散発的な死亡事故の損害は成長速度が速い場合、ビタミンEの添加にかかるコストを考慮すると経済的にあまり大きくないかもしれません。豚の管理者はよりストレスを減らし、管理を改善して死亡率を低くする義務があります。抗酸化物質の低下による問題が深刻な場合では離乳後の死亡率が4%に達します。これは肉豚一頭当たりの生産コストにすると£1.50に相当します。
さらに抗酸化物質のレベルが必要量ぎりぎりの場合だとPRDCなどの二次感染の原因となり、成長速度の低下や死亡率、薬品代などにより一頭当たりのコストが倍になります。
2008年12月
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