抗菌性成長促進剤の非抗菌性抗炎症効果が本当の作用機序か?(仮説)
(T. A. Niewold; 2007 Poultry Science 86:605-609)
要約
社会の関心や政府の規制強化により、抗生物質の抗菌性成長促進剤(AGP)としての使用規制が強化されてきた。代用となるものが求められているが、AGPの正確なメカニズムに関する知識が欠けている事が妨げとなっている。AGPやその代用品などの飼料添加物は消化管と相互作用する。消化管の中の飼料の構成物、微生物や粘膜の相互作用はとても複雑でダイナミックに行われている。AGPのメカニズムに関してさまざまなことが提案されてきたが、常に消化管内の微生物の構成に直接影響する抗菌性の効果がベースにあるとされてきた。しかしながら、抗生物質の文献によると宿主の細胞、特に炎症細胞に対する抗生物質の直接的な影響も述べられてきた。これまでこの事がAGPの文献の中で語られなかった事は面白い。現在AGPの成長促進作用として最も期待を寄せているのが、AGPが消化管の炎症細胞からの分解因子の分泌を阻害することによるものだということである。付随する、もしくは二次的に起こる微生物叢の変化は消化管壁の状態の変化の結果によるものと考えられる。このメカニズムは高い反復性を示すAGPの効果をよく説明できる可能性があり、他の微生物叢の管理を目的とした代用品とは違っている。それゆえ、代用品を探すためには抗菌性でない成分でAGPと同様の炎症システムに影響を与える成分を求めるべきである。
これまで代用品としてプレバイオティクス、プロバイオティクス、シンバイオティクス、有機酸、ハーブ、ハーブ抽出物が試されてきたが、どれもAGPのような安定した結果を出せない。
AGPの作用機序について、次の4つの仮説が出されている
1.AGPは環境中の潜在的な感染を防止し、本来の免疫システムが必要とする代謝コストを削減する。
2.AGPは微生物が産生する成長を抑制する代謝物(アンモニアや胆汁の分解産物)を減少させる。
3.AGPは微生物が利用する栄養を減少させる。
4.AGPを与えた家畜の消化管壁が薄いことから、栄養素の吸収を強化する。
しかし、これらに対する反論は以下の通り。
1)AGPの使用量は病原体の最小阻止濃度(MIC)以下である。また、長期間の使用は耐性菌を発生させる。
2、3)AGPが細菌叢の中で特定の種類を選択的に攻撃するか、また病原体にとってはMIC以下であるが、同様に考えていいのか不明である。また、これらの代謝物を作るとされる菌と同種のもの(LactobacillusやEnterococcus)が成長促進用のプロバイオティクスとしてよく使われている。消化管内の細菌叢についてはよく分かっていない。
4)栄養素の吸収率は粘膜の厚みではなく、表面積により高くなる。AGPの使用による腸壁の菲薄化は細菌叢の変化と直接関係しない。
1)動物種によって腸内細菌叢は違うがAGPは動物の畜種によらず効果を発揮する。
2)抗生物質には抗菌スペクトルの違いがあるが、それらにかかわりなくAGPは同様の効果を発揮する。
3)薬剤治療に用いる抗生物質の中にはAGPの効果を発揮しないものもある。
4)低容量での長期的な使用は耐性菌を発生させやすいはずである。
5)抗菌作用を発揮するAGPの代用物はその抗菌効果が高いにもかかわらず効果が安定しない。
これらのことから、AGPの効果は細菌に対する抗菌効果であるという説明には難点がある。
抗生物質はそれらの化学的な違いにより副作用が変わってくるが、共通点は炎症細胞に蓄積されるという事もある。AGPの使用濃度はMIC以下であるが、食細胞は抗生物質を時に10〜100倍の濃度に濃縮し、貪食性の炎症細胞の多くが弱化して炎症が抑制される。抗生物質の中には蓄積率の差、蓄積による貪食細胞への影響に違いがあるが、現在AGPとして使われているマクロライド系、ストレプトグラミン(ペプチド系)、サイクリン系は貪食細胞を弱化する。
抗炎症作用による成長促進効果の説明は、無菌動物にAGPを使用した場合の効果の説明となる。AGPを使用すると腸内の炎症が抑えられ、それに関わるエネルギーが無駄にならなくなる。
AGPの使用により腸内の免疫が低下し、これによって腸内細菌叢が変化するという方がAGPによる腸内細菌の変化の説明がつきやすい。
(T. A.
Niewold; 2007 Poultry Science 86:605-609)
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