狩猟対象鳥の鉛中毒


                       (LEAD POISONING OF GAMEBIRDS. P. J. Viljoen May 2003)

ほとんどの鉛中毒に関する先入観は疑似科学に基づくもので、人々の視点によってしばしば間違って表現されたり誤解されたりする問題があります。鉛中毒に関しては二つの大きな問題が関係します。第一に、鉛の埃や鉛の誘導体による環境汚染であり、第二は金属片そのものの摂取による直接の鉛中毒です。

 

1.環境汚染

 鉛そのものはとても安定した金属で、空気中や水中での酸化は非常に遅いため、鉛による環境汚染は普通、鉛そのものではなく鉛の誘導体による環境汚染の結果です。鉛による環境汚染の原因は鉛の誘導体を含む工業製品もしくは副産物によることが普通です。有鉛燃料の排気、塗料、加工設備など、多くの汚染源があります。特に車に使用する有鉛燃料は毎年環境に数千トンの鉛の誘導肺を放出し、環境汚染問題の最大の脅威となっています。

 

 環境中の鉛の誘導体濃度が高いレベルで持続すると、人間と動物の両方に実際的な危険を与え、人口全体の問題となります。致命傷となることはほとんどありませんが、それは全ての健康問題の原因となりうる可能性があり、二次的に死へとつながります。

 

2.直接の鉛中毒

 直接の鉛中毒は摂取された比較的大きな金属片が、組織の働きに毒となるものです。繰り返しますが、人間を含む哺乳類が直接に鉛を摂取した場合は鉛の酸化率が遅いために酸化吸収される前に十分な速さで消化管を通過し、健康への影響はない、もしくはごく僅かです。例えば兵隊や、多くの狩猟弾の弾頭や鉛の破片を飲み込んだ人たちです。鉛の破片が虫垂に残ったが明らかな健康被害はなかったという報告もあります。

 

 しかしながら、多くの鳥類は砂嚢を持っているため鉛は砂嚢を通過できず、小さな破片に粉砕されて胃液で急速に酸化され、中毒を起こします。

 

2.1狩猟鳥への鉛散弾の影響

狩猟鳥への鉛散弾の影響はSandersonBellrose(1986)によって、多くは米国のものを含む様々な160の文献にわたる広範囲な調査が行われました。狩猟期の間の秋から初冬にかけて、約200,000個の砂嚢が様々な地域の16種類以上の水鳥から集められ、鉛散弾について調査を受けました。膨大な数の飼育下の野生狩猟用水鳥が提供され、散弾の用量、栄養、年齢、性別、鉛の毒性の生理学な発現について調査されました。

 はっきりと確認されたことは、鳥類は直接鉛散弾を飲み込むことで死に至ることです。

 もう一つ重大な結論は、食性の違いや摂食した鉛への感受性の違いにより、水鳥の種類によって異なる傾向があるということです。鉛の毒性は減少傾向にあるblack ducks, mottled ducks, pintails, canvasbacks, redheads, and ring-necked ducksについでマガモの最大の脅威となっています。他のカモ類についての鉛中毒の可能性は低いです。ハクチョウやガン関連するものの中で発生数は大きくなりつつあります。

 タンパク質とカルシウム、リンが鉛の致死率について重要な役割を果たすことも明らかにされています。水鳥以外の陸生の狩猟対象、またはその他の鳥に対する鉛ペレットの影響の報告はありません。

 

2.2鳥の鉛中毒のその他の原因

 例えば、鉱山の廃棄物中の鉛がアヒルやガン、ハクチョウの死亡原因になったことがあります(Phillips and Lincoln 1930; MacLennan 1954; Chupp and Dalke 1964)GelstonStuht(1975)は釣りの錘を飲み込んだコブハクチョウ(mute swan, Cygnus olor)で発見しています。BagleyLoche(1967)は彼らが調査した全ての鳥が食物から致死量に近い鉛に暴露されていたことを発見しました。これらの調査は28種類の鳥で行われ、内17種類は水鳥で、一般に低いレベルの鉛が肝臓で見つかり(2.0-26.0 ppm, wet weight)、慢性的で低濃度の鉛に暴露されていたことが指摘されました。決定的なことは、これらの鳥は鉛中毒ではなかったということです。

 

 Neithammer(1985)はミズーリ州の鉛鉱山の下流で採取した青サギの肝臓から低濃度(湿重量の幾何学平均値で0.070.55ppm)の鉛を検出しました。また、彼らは鉛鉱石の廃石堆積場に巣を作ったショウドウツバメの死体からやや高い(湿重量平均2.026.0ppm)鉛の数値を検出しました。

 

 さらに散弾以外で鉛が検出された鳥の例にはテキサス州のGa;vestpm近郊で集められたワライカモメ(Munoz and Gesell 1976) があります。成鳥と羽根の生える前の雛の肝臓、脳、心臓、骨の組織の鉛濃度は湿重量で0から16u/gの範囲でした。巣の中の雛と成鳥で違いが認められなかったことから、幼鳥は巣にいる間に鉛の平衡値に達していたことがうかがわれた。これらの鳥では鉛中毒は報告されていません。

 

 大井ら(1974)は田舎の農家と賑やかな東京の下町の寺で捕まえた鳩の大腿骨の鉛濃度に大きな違いがあることを発見しました。市街の鳥の高い濃度は自動車の排気ガスからの大気中の鉛によるものです。ケープタウンと東京のどちらの調査でも臨床症状や死亡率に関しては触れられていません。

 

 いくつかの致死的な例を含めた動物園の動物での鉛中毒の報告があります。たとえばBazell(1971:130)Staten Island 動物園で調査した結果、動物の体内の鉛のいくらかはケージの塗料由来のものですが、ほとんどが大気汚染によるものだと報告しました。動物園の動物と違い、野生の水鳥は大気中の高濃度の鉛に長期に暴露さることはほとんどないと述べました。

 

 世界の大気や土、水、植物の鉛汚染の関心が高まっていますが、水鳥の鉛散弾の摂食による鉛中毒以外で野生動物が鉛中毒で死亡率が高まっているという証拠はありません。

 

2.3南アフリカでの調査

 今日に至るまで、南アフリカで狩猟対象鳥が鉛散弾の影響を受けているという報告はありません。鳥の鉛中毒の報告はありますが、鉛散弾によるものではありません。鉛中毒により鳥が大量死しているという報告もありません。

 

Siegfried(1972)はケープタウンの市街と50qはなれた田舎で得られたワライバトで鉛濃度の平均値に大きな違いがあることを発見しました。彼らはこの違いは市街地の大気の高い鉛濃度によるものだと結論づけました。

 

Adendorf, van EedenSchoonbee(1994)Witwatersrand3か所から得られたアフリカオオバンとエジプトガンの胸筋の鉛濃度が低いことを報告しました。

 

考察

 前述の研究により、摂食された場合に鉛散弾が鳥にとって致死的であることは疑いようのない事実です。同時に、疾病や農薬、車、電線、生息地の破壊、捕食者も同様です。

 

 また、鉛散弾による鉛中毒は水鳥の中でも摂食行動や生息地が関連する特定の種類にのみ影響することも明らかです。泥を探らない陸上の狩猟鳥や、不透性で厚い泥の層がある浅瀬以外にすむ鳥は鉛散弾を飲む危険が少ないことが分かっています。

 

 大量の鳥が鉛散弾の摂食による中毒で死亡しているという証拠はありません。南アフリカでは狩猟鳥の死亡の主要な原因は農薬の誤使用であり、14%の農場で狩猟鳥の中毒死が報告されています。(Viljoen,1998)。これは生息地の破壊、主に単一農作システムにより自然の生息地から移動したことや湿地の破壊、公害の影響によるものです。

 

 鉛散弾が環境中の唯一の鉛金属源ではありません。この国にはおよそ200万人以上の釣り人がいて、約1万人以下と見積もられる南アフリカの狩猟者がまき散らす鉛散弾の量よりもはるかに大量の鉛のおもりが水中に投げ込まれています。たぶん、南アフリカの環境に鉛をもたらす最大の源は何百万台もの自動車であり、少なくともタイヤの縁に4つの鉛のバランス用おもりがつけられていて、国中の道路上で落とされています。

 

 南アフリカの鳥の狩猟者は陸棲の鳥を狙い、多くの水鳥は穀物畑、もしくは穀物畑への通り道で撃たれています。南アフリカウイングシューターのメンバーの調査では1%以下の水鳥しか餌場となる湿地の付近では撃たれていませんでした。ほとんどのウイングシューターは鉛散弾への脅威を減らすため、危険な地域での使用をやめようとしています。

 

結論

南アフリカでは散弾による鉛中毒の脅威は他の鉛源やその他の野生生物への脅威となるものと比べると非常に少なく、水鳥への鉛散弾の使用を規制するほどのものではありません。


                       (LEAD POISONING OF GAMEBIRDS. P. J. Viljoen May 2003)


管理人のコメント

 世界的にみても鉛散弾の使用は規制する方向にあり、鳥類の健康に及ぼすリスクがあることを考えると私は鉛弾の使用はやめる方向で行くべきだと考えます。鉛弾と代替えとなるスチールや銅弾との比較では様々なデメリットも言われていますが、実際に鉛散弾の使用規制により標的射撃でもスチール弾を使っている国々では命中率や銃身への悪影響はほとんど問題にされていないようです。
 鉄砲撃ちである私は、自分の3/4絞りの銃身で安全に使えて、また装弾が安価で入手できるのであれば鉛弾にこだわらず、むしろ理解あるところを見せてスチール弾や銅弾に移行したいと思っています。

 さて、鳥類の鉛中毒といえば鉛散弾やライフル弾、釣りの錘が標的にされますが、実はその陰に隠されたもっと深刻な鉛中毒の影響についてももっと考えるべきではないでしょうか。自然環境中、例えば自然に吸収されやすい形の鉛の誘導体を多く含む地層や土壌、また昔の鉱山跡地やその排水が蓄積し汚染された土壌がこの日本にも存在します。このようなものに含まれる鉛は我々人体にも吸収されやすく、気づかないうちにルダヤ・プリスタンの子供たちのような健康被害が局所的に起こっている可能性もあるのです。

 私は鳥類の鉛中毒の実態調査を進めるにつれて、鉛中毒とは言えないまでも妙に血中鉛濃度の高い(10μg/dl前後)個体の多さに驚かされました。いづれ正式な形で発表するつもりですが、私は鉛中毒という問題が決して一部の鳥類の、鉛弾など一部の原因で起こるだけのものではなく、もっと身近にも潜んでいるものだということを訴えたいと思います。




                             戻る