牛結核病撲滅プロジェクトと野生動物

(Michigan Bovine Tuberculosis Eradication Project
- 2008 Bovine TB Annual Report
より抜粋)


野生動物の牛結核病保有宿主から家畜を守った成功例

Paul Livingstone
New Zealand Animal Health Board

ニュージーランドの紹介

ニュージーランドは二つの島からなる国で、約2700万ヘクタールの面積があります。人口は4百万人、68%がヨーロッパ人で16%がマオリ、アジアとポリネシア系がそれぞれ8%です。ニュージーランドでは牛とシカが商業的に飼われています。牛は72,200農場で960万頭、内14,500農場で580万頭が乳牛です。家畜のシカは3,500農場で180万頭が飼育されています。これらの家畜生産物はニュージーランドの輸出額の30%以上に達しています。

 

1905-1993にかけてのニュージーランドの牛結核病(以下BTB)の歴史的背景

 1905年に任意のBTB予防計画が発動しましたが、失敗に終わりました。1945年に乳牛の任意のBTB検査が始まりましたが、この検査は1961年に義務となりました。野生動物のBTB感染は1954年に野生のレッドディアで確認され、1962年に野生の豚で再発見され、1967年にはブラシテールポッサム(Trichosurus vulpecula)で見つかりました。1970年には全ての乳牛と肉用牛の検査が義務化されました。当時BTBは牛群の汚染が確認されると、摘発・淘汰を繰り返し、汚染農場と清浄農場の接触を絶つことでコントロールできる単純なものだと思われていました。

 1972年にオーストラリアのブラシテールポッサムがBTBの牛への感染源(ベクター)であることが分かり、感染したポッサムの個体数コントロールが始まりました。ポッサムのコントロールは牛のBTB抑制性にとても大きな効果がありました。例えば、1970年にはブラーサウスの95%の牛群がBTBの感染を受けていました。樹上と地上に生息するポッサムの個体数調整により10年間で劇的な感染牛群の減少が見られ、1980年には汚染農場は約4%になりました。

 

 1978年に家畜のシカで行われた任意のBTB検査で感染が見つかりました。同年、政府はポッサムの駆除への助成を停止しました。これにより、ポッサムの駆除無しでは牛やシカのBTB感染が増加することが分かり、1984年に政府はポッサム駆除の助成を再開しました。

 

BTB撲滅のために必要な3要件−三本足の椅子

 BTBの撲滅には三本足の椅子のそれぞれの足のように、三つの主要な要件があります。感染した牛とシカの摘発・淘汰は撲滅の重要な部分です。汚染されていない牛群への感染拡大を防ぐため、感染した牛群の移動制限も重要です。そしてもう一つが感染したベクター数のコントロールです。ベクターのコントロールの重要性はニュージーランド政府がポッサム駆除の助成をやめたときのBTBの劇的な増加により明らかにされました。

 1987年に、ニュージーランド政府は受益者(生産者たち)BTBコントロールを負担すべきだと申し立てました。その結果、国立動物衛生諮問委員会が主導となり、「要望者が負担する」事を始めました。1993年には国内、もしくは地域の全ての疫病(植物、動物、微生物のもの)を対象とする疫病予防政策(PMS)に則ったバイオセキュリティ対策を、撲滅のために実施することが提案されました。これには1:提案の概要と必要経費、2:期限を決めて計測する方法、3:出資者たちとの協議と合意も含まれました。この提案は農水省に提出されて審査を受け、助成は5年ごとに見直されることになりました。

 ニュージーランドではBTB撲滅のためのPMSは動物衛生委員会(AHB)が執行しました。動物衛生委員会は政府の施行するBTB疫病管理政策に直接関わり、責任を持って遂行できるメンバーで構成された組織です。動物衛生委員会の唯一の目的はBTBを撲滅して乳製品、牛肉、鹿肉などの輸出の安全性を守ることです。

 政府からの撲滅の助成金も肉牛、酪農、鹿肉生産者に与えられました。家畜の疾病コントロールは全て生産者が資金を集め、疾病管理とデータベースの作成、TBテスト、補償(肉牛は公正市場価格の65%、鹿は枝肉処理料)に使われました。ベクターコントロールには地方政府が10%、生産者が40%負担したのに対して王室が50%資金提供した。

 現在の政策期間は2001年から200136月の間です。動物衛生委員会の最大の目標は2013630日までに1000農場あたりの汚染農場を2ヵ所以下に抑える(農場の罹患率が0.2%以下)事です。

 この政策により、2001年の6月に牛と鹿の511農場が罹患していたものが2008年の6月には142農場に減少し、年間の農場罹患率も1.32%から0.34%に減少しました。2007年から2008年のAHBBTBコントロールに要した資金は8200NZドル(50億円)で、1800万ドルが疾病コントロール、5500万ドルがベクターコントロールに使われました。

ミネソタの牛における牛結核病

William L. Hartmann
Minnesota Board of Animal Health

2005年、ウィスコンシンの食肉処理場のと畜サーベイランスで牛結核病の感染牛が1頭摘発され、追跡調査でミネソタ州の北西の農場だと分かりました。ミネソタの動物衛生委員会はその農場を隔離して検査し、調査を開始しました。州で発見された牛結核病の汚染牛群は11農場に及び、ミネソタ州は2006年の1月に汚染地域になりました。州の汚染状況は二年間の間にさらに4農場での感染が確認されたことから、2008年の4月にさらに汚染度が高い地域とされました。

ミシガン州とミネソタ州の牛結核病にはたくさんの類似性が認められました。どちらも牛結核病は北部の限定された農業エリアで発見され、また家畜の牛と野生の鹿の両方から牛結核病が発見されました。しかしながら、重大な違いもいくつかあります。ミネソタの鹿の感染率は0.5%以下でミシガン州の罹患率と比べてかなり低いため、ミネソタ州ではミシガン州と比べて野生の鹿での牛結核病の発生はあまり起こっていないことがわかります。加えてミネソタの汚染地域では牛の農場が300軒なのに対して、ミシガン州では約1000農場もあります。最後に、ミネソタでは農場の買い上げ計画が実行でき、疾病監視地域では鹿除けフェンスの設置も行われました。

ミネソタ州のTB撲滅計画の目標は鹿と牛の接触を減らし、家畜と野生動物両方から牛結核病を撲滅する(抑制やコントロールではなく)ことです。ミネソタ州では2008年の秋までに徐々に州の地域を汚染度によって分けていき、現在は汚染地域に焦点を絞っていく計画です。(編集者注−USDA20081010日に、ミネソタ州の汚染度分けの対策が有効であると認めました)

 現在の問題には、汚染地域の近郊にあり、野生動物の感染が関係している農場の取り扱いが含まれます。

ミシガン州の汚染農場

James Earl
United States Department of Agriculture APHIS VS

 20062月から20081月にかけて、ミシガン州では8軒の牛結核病汚染農場が摘発されました。3農場が酪農場で、5農場が肉牛農場です。7農場は中心地にある5つの群に立地していました。

 牛結核病は2006年の2月にAlpena115頭の肉牛農場で、2006年の4月にはAlpena48頭の肉牛農場2006年の5月にAntrim25頭の酪農場、20065月にAlpena150頭の酪農場、20071月にMontmorency120頭の酪農場、200710月にAlcona169頭の肉牛農場2007年の12月にmontmorency95頭の肉牛農場、2008年の1月にOscoda70頭の肉牛農場で発生しました。興味深いことに、※印の付いた二つの農場では二回感染が起こり、最終的に5農場が二度の感染を受けました。

 全ての汚染農場で家畜の入れ替えを行いました。家畜の入れ替えのコストは8農場の平均で$117,518(最大$324,605、最小$29,838)になり、トータルで$970,587でした。二度の感染を受けた2農場では、二度目の入れ替えのために$183,635かかりました。



(Michigan Bovine Tuberculosis Eradication Project

- 2008 Bovine TB Annual Reportより抜粋)







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